朗読者 (新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)

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ベルンハルト シュリンク
新潮社
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#ガーディアン必読1000冊リスト に含まれる1冊。
印象に残ったのは、自己正当化のために周囲の罪と恥を糾弾するその他大勢に対し只管内へと向かう主人公達、特にハンナの頑ななまでの『誠実』さだった。初めての愛の喪失と裏切りに耐えられず、心を麻痺させてしまうミヒャエル。一方ハンナは、愛も生活も人生そのものを犠牲にしてでも、たった一つ、決して譲れない自らの矜持に誠実だった。それを愚かとみるのは簡単だ。だが私達に彼女を断罪する権利があるだろうか。一方的に彼女を断罪しようとする人々に、彼女は問いかける。

「あなたなら、どうしましたか?」

ナチスという歴史における前世代の国家・社会が抱える集団罪責、それを、自らの両親と両親ほども年の離れた最初の女性ハンナへの愛に引き裂かれつつ何とか自分の中で消化しようとした時、ミヒャエルが選んだ方法は、法史学という道だった。そして、歴史を通して人類が生み出してきた名作文学を朗読し、読み聞かせることで、かつてと変わりない思いを、文盲ゆえに、それを他人に知られたくない矜持ゆえに、犯していない罪まで沈黙のままかぶり、絶望したまま服役するハンナに伝えつづけるミヒャエル。そして最期には…ハンナが取った決断の片鱗だけだが、私にはなんとなく分かるような気がする。彼女はハンデを負ったまま若くして時代の動きに流され、流されたがゆえの責任を問われ、罪に落とされた。その彼女にとって、唯一残された拠り所が、自らの矜持だったのだ。それを喪った時、彼女は…

「誰にも理解されないなら誰に弁明を求められることもない。ただ死者を除いては」

感想として書きたいことは他にもあるのだが、テーマの重さゆえか、あまりに多岐にわたっているせいか、読了直後の今は上手く言葉にならない。ジョージ・スタイナーは、この本は2度読め、と言っているらしい。そうでなくても、私はこの後英語で読む予定だ。いつもとは逆の順序になってしまったけれども。